フタユビナマケモノは泳げる!
10月20日は「世界ナマケモノの日」。コロンビアの野生動物の保全活動を行う民間団体が、2010年に開催したナマケモノの保全などに関する国際会議で制定しました。
— けものフレンズ@公式アカウント (@kemo_project) October 20, 2018
哺乳類では珍しい変温動物で代謝が低く、1日わずか8gほどの植物を摂取することで生きています。#世界ナマケモノの日 #けものフレンズ pic.twitter.com/ryK0PpwX93
え?ナマケモノって泳げるんじゃないの???
まずはwikipediaを見てみる。
ただしフタユビ科は泳ぐ時に頭が水上に出ないため泳げない。マジ??と思ったがよく見ると出典がない。英語版にもそのような記述はない。この記述は2015年5月に加えられているが、当時の英語版の記事にもそのような記述はない。
ナマケモノ - wikipedia
「フタユビナマケモノ 泳げない」というワードでgoogle検索して2015年5月以前の結果と、現在の結果を比較する限り、2015年5月以降に日本語圏のインターネットで見つけられる記述はおそらくほとんどすべてwikipediaの記述を引いたものだと考えられる。例えば次の記事がある。
指の数が3本ならミユビナマケモノ科で泳ぎが得意、2本ならフタユビナマケモノ科で泳げません。この記述はGIZMODO英語版の記事 Sloths Are Amazingly Fast Swimmers When They're Chasing Sex の翻訳だが、原文には該当する記述がない。翻訳者がwikipediaの情報を鵜呑みにして書き加えたものと考えられる。
「なまけてなどいない…!」 ナマケモノが本気を出す時 - GIZMODO (2016年11月)
ひとまず日本語で検索してみると、国内で飼育下のフタユビナマケモノが泳いでいる映像がYouTubeで見つかった。
泳ぐナマケモノ 「ゆめ子」 - YouTube (2012年8月)
とはいえ、飼育下と野生環境では状況が異なる可能性もあるので、まだ安易に結論は出せない。また、同園では、2011年12月にフタユビナマケモノが溺死している。
2011年12月28日(水)、大分市の水族館「うみたまご」は、フタユビナマケモノ「さんた」(推定4歳)が室内プールで水死したことを明らかにした。信頼して良さそうなソースの情報として、ナショナルジオグラフィックには次の通り記述がある。
“婿入り”した雌のナマケモノが水死 [大分] - インターネットミュージアム (2012年1月)
地上では不器用な反面、泳ぎは驚くほど得意だ。時には熱帯雨林の樹上から川へと飛び込むこともあり、長い腕を器用に使って泳ぐ。やはり泳げるのでは?
動物大図鑑 フタユビナマケモノ - ナショナルジオグラフィック
本題から逸れるが、日本語で情報を探していた際、同様のことを疑問に思っている人が既に存在しているのを見つけて、ちょっと面白かった。
フタユビナマケモノは泳げるのか問題。。。
Wikipedianの記述ではフタユビ科は「泳ぐときに頭が水上に出ない為、泳げない」となっています・・・ ここだけそんな風に書かれてます。
他の多くの資料はフタユビナマケモノとミユビナマケモノが区別されずに、泳ぎが上手だと書かれています。フタユビのいる動物園のHPの紹介でも「泳げる」と書いてあるのが多いですが、実際には動物園で泳がせていることはないので何らかの資料を元にしているのでしょう・・・
Wikipedia英語版でも is able to swim...とあります。
あるサイトではフタユビナマケモノは泳げる、として動画が貼り付けられていますが、その動画に登場しているのはミユビナマケモノのような気がします。。。
まぁ、スローライフの大師匠が泳げるかどうかなんて、どっちでもいいかもしれません
フタユビナマケモノ - 私的アニマルランド (2015年7月)
閑話休題。
日本語圏では"情報汚染"が激しいので、英語で調べてみると、"泳げない"とする記述は(少なくとも自分が調べた限りでは)ひとつも見つけられなかった一方で、"泳げる"とする記述は複数見つかった。
And surprisingly enough, the long-armed animals are excellent swimmers.
Sloth - WWF
Suprisingly though they are excellent swimmers and have been known to drop into the water and swim to a new tree.
This Two-Toed Sloth Is an Excellent Swimmer - YouTube
(俺注:動画を投稿している Great Big Story はCNNの子会社(現在は消滅))
To move to a new area of trees, sloths often wait for the forest to flood and then swim to their next home.
Two-toed Sloth - San Diego Zoo
They cannot swim as well nor as far as the Bradypus (three-toed sloth). Their neck is very short, making it challenging to keep their head above water. They are much heavier and the hair absorbs water very quickly, causing them to drown quite easily. They swim with a dog-paddle stroke.
Hoffman’s Two-Toed Sloth - THE DALLAS WORLD AQUARIUM
ということで、俺の中ではほぼ「泳げる」だろうという結論になったが、せっかくだし動物園に質問してみると面白いのでは?という気持ちになったので、神戸どうぶつ王国に対して質問メールを出してみた。
国内にはフタユビナマケモノを飼育している動物園はいくつもあるが、その中から神戸どうぶつ王国を選んだ理由は、最近もけもフレコラボをやっていたことが記憶に残っていたことと、公式サイトにお問い合わせフォームが存在していたこと(こういう使われ方はあまり想定されていないのだろうが……)、俺自身が縁もゆかりもないところであったこと(え?)、など。
送った文章としては、この記事でここまで書いてきたことをざっくり要約した、「wikipediaには『泳げない』って書いてるけど、英語圏だと『泳げる』って情報の方が多そう。実際のところどう?参考文献ある?」という主旨のもの。
以下実際に頂いた返信の全文
●●様(このあと掲載許可を取った)
こんにちは、神戸どうぶつ王国の■■と申します。
この度お問い合わせ頂きましたナマケモノの件ですが、フタユビとミツユビで頸椎の数が違うことは確かです。
実際ミツユビは顔を出して泳ぐ動画がよく見られますが、当園で飼育しているフタユビが水位が深い所に入る際は顔が浸かっていました。
ただし、池に入り移動する姿は頻繁に観察できましたので、「泳げない」ということはないと思います。
生息地でも、洪水などで木から木へ移る際に必然的に泳ぐことがあると聞いています。
信頼性の高い情報源はこちらも不確かである為ご紹介しかねますが、飼育している立場としては、泳ぐことはあるがミツユビより上手ではない、という印象です。
曖昧な解答になり申し訳ございませんが、少しでも参考になりましたら幸いです。
また機会がありましたら当園のナマケモノに会いに来てあげて下さい。
ご来園をお待ちしております。
神戸どうぶつ王国 ■■
ということで以上をまとめ、結論は次の通り
・フタユビナマケモノは泳げる。ただし、ミツユビナマケモノには劣る。
・日本語圏における「フタユビナマケモノは泳げない」という記述は、2015年にwikipediaに記載されたソース不明の情報が拡散したものである
・wikipediaの記述を鵜呑みにする人は多い
・けものフレンズはその記述の多くをwikipediaに基づいている(ギンギツネの件が顕著な例。その他にもいくつもあるが、それはまた別の機会に……)
ちなみに、これらの内容をまとめて、冒頭のツイートに関してけものフレンズ公式にメールで問い合わせたが、10日以上経過した現在までなんらのリアクションもない。(2022年7月追記)期間をあけて合計3回メールを出したが一度も返事が来ることはなかった。
(2023年3月追記)
2022年8月に、wikipediaから「泳げない」という記述が削除されていたらしい。出典は特にありません。
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